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妄想の垂れ流し
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ブラウザによってキチメガテキストが表示出来ないとご指摘を頂きました(Mさん、ありがとうございます。助かりました!)
早速試してみたら、・・・・・なるほど、表示出来ないページがたくさんあります・・・・・・
うちのIEからは一応全て表示できていたので油断していました。早速対策を、と試みたのですが。
原因がわかりません~~~新しいtextページも作ってみたのですがそれも駄目でした。
多分このままだといつまで経っても表示されそうもないので、苦肉の策としてパロのみ、この場に上げておきます。

続きからになります

*注意
こちらは小説『飛ぶ夢をしばらく見ない』(山/田/太/一)のパロです。
しかし、キチメガ仕様に大幅に捏造しています。
原作のイメージを崩す恐れもあります。不快に思われる方は回避をお願いします。





室内には薄いクレゾールの匂いがする。
小型のテレビがベッドの横にあるが到底見る気など起きない。
何もする事などない。今の俺はただこうしてベッドに身体を横たえてればよかった。

『あなたと言う方は本当に欲深い。それ程までの栄華を誇っておられながら尚、心の隙間に囚われておられる。』
もう長い間あの男に会う事はなかった。もうその必要もない筈だった。
なのになぜ手に乗った石榴の実を俺は受け取ったのだろう。この男から与えられる物にろくなものはない事くらい分かっていると言うのに。
『この果実があたなを新たな快楽へと導く事を願っております。』
フフフ・・・・と歌うように息を漏らしながら夜の街へ消えていく後ろ姿を見送った。
その後の記憶は曖昧だった。割れた皮から覗いたルビー色に輝く石榴の実ははっきりと脳裏に焼きついている。そして口に含んだ実から溢れた酸味とほのかな甘み。それだけが確かな記憶だ。
次に目を開けた時、ぼんやりと視界に入ったのは味気ない白い天井。そこが病院だと言う事がしばらく理解出来なかった。俺はベッドに寝かされ、左足は白い包帯で膨れ大仰に吊るされていた。
どうやら俺は大腿骨骨折をしていたらしい。
しかし時折見舞いに来る人のよそよそしい様子や、普段は忙しくも明るく接する看護師が何気なく見せる哀れみのような表情。
自分の記憶がない事を周囲の人間だけが知っている現実に苛立った。
それが意味する事を確かめるべく俺は見舞いに来た本多を問いただした。
「お前・・・・本当にそん時の事、何も覚えていないんだな。」
悲痛そうに唇を噛み締めながら声を震わせる本多に一層苛立ちは募る。
「お前にそんな情けない目で見られる筋合いはない。はっきりと言え。俺に何が起きた。」
「・・・・・じゃあ言うけどな。お前、あんまり気にするんじゃねーぞ。」
「そんな事はどうでもいい。早く言え。」
「・・・・・お前、投身自殺したんだよ。」
「なに?」
「ビルの階段から飛び降りた。・・・・・って言ってもそう高い所じゃなかったんだ。だから本気でお前が死ぬつもりじゃなかったんだって俺は信じてる。」
そう言い本多は顔を背けると、苦痛に耐えるように肩を震わせた。

2

さすがにその言葉を聞いた時は内心動揺し、すぐに言葉を返す事が出来なかった。
『俺が自殺だと?』
周囲の空気からもしや、と思わなかった訳ではない。しかしまさかそれだけはないとすぐに打ち消した可能性だった。
なぜだ。なぜ俺はそんな事をした?俺に何が起きた?石榴の実を口にし俺は一体何を考えたと言うんだ?
しかしその時、頭の中がギシと音を立てたのと同時に突然激しい痛みが襲った。「うっ」と声を上げ無意識に眉間に皺を寄せながらこめかみを押さえる。
その様子に気付いた本多は慌てて肩を揺さぶった。
「無理するな克哉。まだその時の衝撃で記憶障害が残っているって主治医は言ってた。もしかすると精神的な要因もあるかもしれないって。」
「本当に俺が飛び降りたのか?」
「あぁ・・・他人と争ったりした形跡はなかったらしいからな。」
「そうか。」
短く答えると俺はそのまま窓の外に目をやった。白いカーテンからは鮮やかな青空しか見えない。
頭の痛みはすぐに引いた。本多はそっと肩から手を離す。無言のままの俺を見ながら、こいつは俺を自殺をする程自分を追い詰めていた脆い男と思ったのだろうか、とぼんやり考えた。しかし記憶が曖昧な今、本多に弁解する事も出来なかったし、そんな気力も起きなかった。
「悪いが帰ってくれないか。」
その声は自分でも思いの外、力なかった。
「克哉・・・お前・・・・まさかショックでまた」
「馬鹿かお前は。俺がそんな事をする訳がないだろう。それにもし死にたくなったとしてもこの身体だ。自由に歩く事も出来ない。」
「・・・あぁそうか。分かった、克哉、また来るからな。元気出すんだぞ!何か悩みがあったらいつでも俺に言ってくれ。いつまでも俺はお前をダチだと思っているんだからな、遠慮なんかするんじゃないぞ!」
がっちりと両手を握り締めながら正面から見詰める。
「分かったからその手を離せ。」
「あ・・・あぁ、じゃぁな。」
後ろ髪を引かれるように何度も振り返りながら本多は病室を後にした。
もし本当に死にたい奴が本多のような男に見舞われたら益々死にたくなるだろうな。閉まるドアを見ながら思った。
本多が病室から消えるとまたこの個室は静寂に包まれる。時折廊下をカラカラとキャスターの音が通るのが聞こえる位だ。
石榴を口にした俺は一体何を考えたと言うのだろう。思考は自然とそこへ舞い戻っていた。
<オレ>が俺を殺そうとしたのか。
突然そんな考えが浮かび背中に薄ら寒いものを感じた。まさかそんな事はあるまい。俺はもう<オレ>ではない。あの男はとうに消えた。でもそうでなければ俺が自殺をする理由などない。
ギシ。
再び頭の内部が音を立てる。小さく軋むような痛みが襲う。まるで「余計な事を考えるな」とでも言うかのように。
仕方なしにベッドの横に置かれた小さなサイドテーブルの上に置かれたテレビのリモコンに手を伸ばした。
電源を入れるとプツリと音を立てテレビに画像が浮かび上がる。男性司会者がスタジオの中高年女性を「お嬢さん」と呼び健康法を解説している。画面からは胡散臭い程穏やかな午後の長閑さが漂っていた。
きっと俺などいなくてもこうして世界は何事もなく暢気に回るのだろう。そう思ってから、これでは本当に俺が自殺を試みた人間のようだと考え自嘲した。
世間からすれば、中年に差し掛かり突如人生に疲れた男が突発的に自殺を図ったように見えるのだろうか。
キクチが倒産してからもう長い年月が経っていた。
眼鏡を掛けた俺はさしてその後の人生に不安を抱かなかったし、実際新しい会社も直ぐに決まった。そしてその後、自分で起業するまでそう時間も掛からなかった。
まずまずの人生だったのだ。俺は望んでこの人生を選択した筈だった。望んで今の俺になった筈だった。
なのに眼鏡を掛けない<オレ>とどこが違う未来なのか、今の俺には分からなかった。
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